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東京地方裁判所 平成8年(ワ)19650号 判決

原告

東工業株式会社

右代表者代表取締役

木村仁

右訴訟代理人弁護士

小又紀久雄

太田建昌

被告

第一建設工業株式会社

右代表者代表取締役

従野武邦

右訴訟代理人弁護士

田宮甫

堤義成

吉田繁實

田宮武文

小林幸夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、金六〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が被告から、被告がリコー三愛サービス株式会社(以下「リコー」という。)より購入した土地上にマンションを建築した上で、右マンションと敷地とを一括して販売業者等に買い取って貰う、いわゆる専有買いを行うにあたって、売買条件その他についての折衝及び調整等を含む右事業計画全般についての協力業務を委託し、その際、報酬支払合意もなされていたとして、主位的には準委任契約に基づき、また、予備的に商法五一二条に基づき、六〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を請求している事案である。

二  前提事実―争いがない事実等(証拠によって認定した部分は()内に掲げる。)

1  当事者

原告は、一般建築内装及び外装の請負工事等を業とする株式会社である。なお、原告は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)三条一項の免許を有していない。

被告は、土木工事等の請負等を業とする株式会社である。

2  リコーと被告間の売買契約

被告は、平成七年一〇月二日、原告の仲介により、リコーとの間で、埼玉県川越市砂新田一四番一ないし七の土地約四九八七平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を代金一〇億二一〇六万二〇〇〇円で買い受ける旨の売買契約(以下「本件先行契約」という。)を締結した。(甲五、乙八)

3  被告とダイア建設株式会社(以下「ダイア建設」という。)間の基本協定書締結

被告は、平成八年三月一八日、ダイア建設との間で、被告が本件土地上に、被告の責任と負担においてマンションの建築確認を所轄官公署から受けて完成し、これをダイア建設に売り渡し、ダイア建設は土地付区分建物として第三者に分譲することを目的とする「基本協定書」(以下「本件基本協定」という。)を締結した。(甲二)

4  被告とダイア建設間の売買契約

被告は、平成八年八月二一日、ダイア建設との間で、本件土地上に、被告の責任と負担において建築する、平成八年八月七日付で所轄官公署が建築確認処分済みのマンション(以下「本件予定建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を平成九年八月三一日までに完成し、これをダイア建設に売り渡し、ダイア建設は本件不動産と土地付区分建物として第三者に分譲すること(いわゆる専有買い)を目的とする「土地付区分建物売買契約書」(以下「本件売買契約」という。)を締結した。(甲三)

三  争点

【争点1】本件売買契約に関して、被告から原告に対し、委託(委任)した業務があるか。右委託があるとして、どのような業務を委託したのか。

(原告の主張)

1 被告は、平成七年一〇月一八日、原告に対し、本件売買契約を行うにあたって、売買条件その他についての折衝及び調整等を含む、いわゆる専有買いの事業計画全般についての協力業務を委託した(以下便宜「本件委託」という)。

2 本件委託の内容は、被告が本件先行契約により買い受けた本件土地をそのまま第三者に転売するのではなく、本件土地に付加価値を付けた上で販売業者に買い取って貰うという事業計画(以下「本件事業計画」という。)につき、原告が企画、調査、調整及び実施等を含む全般的な協力業務を行うというものであって、原告が本件委託に基づき行った業務の具体的内容は、次のとおりである。即ち、

(一) 本件事業計画の基礎となる基本資料の作成及び提出、並びに右計画策定に関する被告担当者に対する種々の助言

(二) 三菱商事開発建設部との間で、会館建設の可能性についての打診・協議

(三) 専有買い候補業者(リブラン株式会社、扶桑エクセル株式会社、ダイア建設等)との間で、マンション建築の坪当たり予定単価等に関する連絡・調整を含め、専有買いをしてくれる業者の選定に向けての調査及び下交渉

(四) 本件土地上の既存建物の解体を行う朝日建設株式会社を被告に紹介するとともに、右解体工事についての近隣対策、右解体業者との間の解体箇所等についての打ち合せ及び解体費用の交渉、右解体費用を誰が負担するかについての折衝(リコーが負担することに決着)、並びに解体状況等についての右業者との連絡・調整及び数度にわたる現場確認等

(五) 被告からの依頼に基づき、ダイア建設と交渉した結果、同社から下請業者(三平建設)を紹介して貰い、三平建設が本件予定建物の設計・施工・監理をすることになったこと

(六) 国土法上の届出内容等についての、被告とダイア建設間の連絡・調整

(七) 本件基本協定締結にあたり、被告担当者(遠山満部長(以下「遠山部長」という。)からの要請により、被告が取得する利益額についてダイア建設との間で利害調整を行い、その他の条件についても両者間の利害調整を行い、本件基本協定を締結させたこと

(八) 右(七)の利害調整に際し、ダイア建設から譲歩を引き出すためもあって、本件予定建物の一部が売れ残った場合には、リコーにおいて販売先を見つける等の業務協力を取り付けるべく交渉し、その旨の内諾を得たこと

(九) 本件予定建物建設に伴う近隣対策についての被告担当者に対する種々の助言。特に、宗教関係の近隣施設との関係について、右施設から本件予定建物建設の承諾を取り付けたこと

(被告の反論)

被告の原告に対する委託があったとすれば、その内容は、本件売買契約の媒介(仲介)である。

【争点2】前記委託につき、報酬支払合意があったか。

(原告の主張)

原告は、平成七年一〇月一八日、本件委託に際して、遠山部長に対し、「原告の仲介手数料は、本件売買契約が成立することを条件に、業界の相場を考慮して、右売買契約において定められた売買価格の三パーセントとする。」ことを申し入れたところ、遠山部長は、「三パーセントまでは出せないかもしれないが、できる限り努力する。」との回答をしたため、正式な報酬額は後日定めることにした。その後、遠山部長は、原告に対し、本件売買契約の代金額(約三〇億円)の少なくとも二パーセント(六〇〇〇万円)は支払う旨何度も約束し、その支払時期は、本件売買契約締結後とすることで合意していた。

(被告の反論)

原告と被告間で、本件売買契約に関して、報酬支払合意をしたことはない。

【争点3】前記報酬支払合意が認められない場合、原告は、被告に対し、商法五一二条に基づき報酬を請求できるか。

(原告の主張)

原告の営業目的は、前記二1のほか、これに関連して不動産仲介業務等を業としているところ、その営業の範囲内において、被告のため、前記【争点1】の各業務を行った。従って、原告は、被告に対し、商法五一二条に基づき相当額の報酬を請求する権利を有する。

(被告の反論)

原告の会社の目的は、前記二1のものであって、不動産仲介業務は、会社の目的ではない。従って、原告が行ったという業務は、原告の会社の目的に該当しないから、営業の範囲内の行為ではなく、商法五一二条の適用はない。

【争点4】原告は、無免許業者であるため、被告に対し、報酬を裁判上請求できないことになるか。

(被告の主張)

原告の行ったという業務は、宅建業法が無免許業者に禁止している「宅地若しくは建物の売買等の代理若しくは媒介」に該当する。従って、仮に、原告・被告間に報酬支払合意があったとしても、被告の原告に対する報酬支払債務は、自然債務であり、裁判上の行為は認められない。また、仮に、原告に商法五一二条に基づく報酬支払請求権が認められる場合でも、右は、明示の合意すら存在しない場合で問題となる請求権であるから、無免許業者である原告は、被告に対し、右請求権についても裁判上行使することは許されない。

(原告の反論)

原告が行った業務は、宅建業法が無免許業者に禁止している「宅地若しくは建物の売買等の代理若しくは媒介」に該当せず、原告が請求している報酬は、「仲介手数料」ではない。従って、被告の主張は失当である。

【争点5】原告の報酬請求が認められるとして、相当な報酬額はいくらか

(原告の主張)

前記報酬支払合意に基づく六〇〇〇万円(本件売買契約の代金約三〇億円の二パーセント)。また、商法五一二条に基づく場合でも、被告が原告に支払うべき相当の報酬額は、業界の相場(単なる仲介業務であっても売買価格の最低三パーセント)、原告の行った業務内容等から考えて、最低でも売買価格(約三〇億円)の二パーセント相当額である六〇〇〇万円を下らない。

(被告の反論)

原告について「相当の報酬」が認められる余地はない。

第三  争点に対する判断

一  認定事実

前記第二の二の前提事実に加えて、証拠(甲一ないし三、甲四の一ないし三、甲五、甲六・七(各一部)、甲八、九、乙八ないし一一、乙一二・一三(各一部)、証人小杉裕由起、同山内彬正(一部)、原告代表者(一部))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告(東京支店扱い)は、平成七年三月ころからの原告の仲介により、リコーから本件土地を購入することを決意し、同年六月二〇日には、リコーに対し買付証明書を差し入れた。そして、被告の担当者である遠山部長(当時営業部長で、平成八年四月以降は開発営業部長)は、原告代表者木村仁(以下「木村」という。)に対し、リコーから買い取った後の本件土地の活用法を考えて案を出して欲しい旨の協力を依頼した。原告は、本件土地上にマンションを建築して販売するのが最も良い活用法であるとの考えから、本件土地の開発計画に関しての基本的な考え方のほか、本件土地上に建築するマンションの型ごとの土地代評価や荒利額、住宅分譲事業収支を試算した資料(以下「本件企画書」という。)を作成し、被告に提出した。被告は、原告の助言を参考にしながら、自社でマンションを建築販売するよりは、建築したマンションを販売業者に専有買いして貰う方法が良いと判断して、平成七年七月初めころまでの間に、原告に対し、専有買いをしてくれる業者の選定を依頼した。

2  木村は、被告の依頼に基づき、平成七年七月から八月にかけて、しばしばダイア建設にマンションの専有買いができるか否か打診したり、他の業者のところへも遠山部長を同道したりして、専有買いの下交渉をする一方、本件土地上にあった既存建物の解体を朝日建設株式会社に依頼することにし、被告が同社に解体工事を発注できるように価格調整も行った。その最中の八月二九日、被告は、リコーとの間で、本件先行契約を締結した。一方、原告は、右同日、被告との間で、本件先行契約成立にかかる成功報酬支払のため、「業務協力契約書」を作成して、報酬額を三一四九万七四〇〇円と合意し、一〇月二日にその支払にかかる清算を済ませた。

3  木村は、平成七年八月下旬から九月にかけて引き続き、ダイア建設に対し専有買いの検討を依頼し、参考資料として本件企画書を提出したところ、ダイア建設からも被告からの専有買いの話を進めて欲しい旨依頼されるようになった。そこで、木村は、ダイア建設に対し専有買いの際の坪当たりの単価の提示を求めたり、遠山部長をダイア建設の担当者に何度か引き合わせたりするのと並行して、他の候補業者(リブラン株式会社、扶桑エクセル株式会社等)に対しても、坪当たり単価の提示を要請した。その間、遠山部長は、本件企画書をもとに自ら作成した専有買いにかかる「ディベロッパー条件比較」と題する業者比較表に基づき、どの業者に専有買いをして貰うかにつき、木村と一緒に検討した。なお、木村は、その間の九月二二日ころには、自らも立ち会って、被告と朝日建設株式会社との間で、本件土地上の既存建物の解体に関する請負契約も締結させた。

4  被告は、平成七年一〇月初めころには、社内で専有買いの業者をダイア建設にすることを決めたので、遠山部長から木村に対しその旨伝え、ダイア建設との間で交渉を正式に進めて欲しい旨依頼した。そこで、木村は、同月一八日、ダイア建設の本社において行われた被告とダイア建設双方の幹部の会合(被告からは遠山部長のほか、山内彬正東京支店長(以下「山内支店長」という。)が出席)に同席したところ、被告とダイア建設は、専有買いに向けた基本協定書を作成するために具体的な作業に入ることを合意し、木村は、その場でダイア建設及び被告の双方から、両社間の売買条件等についての折衝、連絡調整を担当して欲しい旨の依頼を受けた。そこで、木村は、当日、山内支店長をダイア建設の武岡副社長に紹介して引き合わせた。

5  木村は、同月一九日ころには、遠山部長から、被告が自社でマンションを設計・施工すると、ダイア建設が申し出ている専有買い価格では六〇〇〇万円位しか利益が出ないため、原告には三〇〇〇万円位しか報酬を支払えないので、マンション建築の下請業者を紹介して欲しい旨の依頼を受けた。そこで、木村は、同月下旬から一一月初めにかけて、ダイア建設と交渉して、被告の下請として、ダイア建設が被告に三平建設を紹介し、同社にマンション建築を下請施工して貰うことを了承させた。なお、木村は、一一月中・下旬から一二月中にかけては、本件土地上の既存建物の解体工事完了に伴う、朝日建設株式会社に対する工事代金支払いにつき、被告と同社間の折衝も行い、原告が工事代金を立て替えて支払う方法により決着させた。

6  一方、山内支店長や遠山部長は、平成七年一二月に入ってから、何度かダイア建設に赴き、基本協定書締結に向けて専有買いの価格の交渉をし、その際、被告側は、ダイア建設に対し、売買代金の一〇パーセント、三億円の利益は欲しい旨申し入れたが、ダイア建設側は右条件は到底受け容れられないとしたため、交渉が難航した。このため、木村は、ダイア建設のみならず、被告(遠山部長)からも、被告が取得する利益額に関する被告の希望を容れて、基本協定書が締結できるよう、条件の調整につき尽力して欲しい旨の要請を受けた。そこで、木村は、同月中旬ころから平成八年三月ころまでの間、被告とダイア建設との間に入って、価格等の条件の調整を行った。その際、木村は、ダイア建設からの譲歩を引き出すべく、リコーと交渉して、最終的にマンションが売れ残った場合には、リコーの方でも販売を担当して協力する旨の承諾を得た。その間、木村は、遠山部長から、専有買いが成立したときには、成功報酬として契約金額の三パーセントまでは出せないかもしれないが、できる限り努力するなどと言われていた。

7  被告とダイヤ建設は、平成八年三月一八日、本件基本協定書に調印した。その後同年四月から六月にかけて、木村は、遠山部長との間で、国土法の届出と建築確認申請の件で打ち合わせをしたり、本件予定建物建築に関する近隣対策について相談を受けて助言したりし、遠山部長の依頼により、近隣の宗教団体から同意を取り付けることに協力した。その結果、被告は、同年八月初旬には、建築確認と国土法の不勧告通知を取得した上で、同月二一日、ダイア建設との間で、本件売買契約を締結するに至った。

8  木村は、同月二三日、遠山部長と会って、本件売買契約成立にかかる成功報酬の支払を求めたところ、何とか売買代金の二パーセント六〇〇〇万円は支払うようにするから、八月末まで待って欲しい旨告げられて、同月末まで待ったが、被告は、回答しなかた。そこで、木村は、同年九月九日、被告に対し、ダイア建設との土地付区分建物の売買の仲介を依頼され、一年近い間双方の調整を行い、三月に基本協定書ができ、八月に売買契約書ができたことにつき、商法五一二条と契約書三〇条(注・本件売買契約にかかる契約書の三〇条のことで、被告とダイア建設が、本件売買契約に定めのない事項または解釈上疑義を生じる事項について、関係法令及び不動産取引慣行に従い、誠意をもって協議の上決定する旨定めたもの)に基づき、仲介料と慰謝料として合計九〇〇〇万円の支払いを請求する通告書を差し出した。

以上のとおり認められ、証拠(甲六、七、乙一二、一三、証人山内彬正、原告代表者)中、右認定に反する部分は採用できない。

二  争点1について

前記一の認定事実によれば、被告は、平成七年一〇月一八日、原告に対し、被告が本件先行契約により買い受けた本件土地上にマンションを建築することにより付加価値を付けた上で、本件土地とマンションを一括してダイア建設に対し転売する、いわゆる専有買いの売買契約の締結に向けて、売買代金等の条件その他についての折衝及び調整を行うことを正式に委任したものと認めることができる。そして、右原告が被告から正式委任された業務の内容は、宅地・建物の売買の仲介(媒介)と評価するのが相当である(以下「本件正式委託」という。)。確かに、被告は、本件先行契約が成立した直後から、既に、本件土地の活用法の考案を原告に依頼し、これを受けて、原告も、専有買いにつき助言したり、そのための企画書を作成・提示したり、解体業者との折衝を行ったりしており、本件正式委託後も、マンション建築に関する近隣対策等にも協力するなどしていることは、前記一で認定したとおりであるけれども、これらは、すべて専有買いという区分建物付土地売買契約成立に向けての仲介業務の一環として、その準備・前提ないし付随業務として原告が行ったものとみるべきである。

三  争点2について

前記一の認定事実によれば、本件正式委託後から本件売買契約成立直後までの間に、木村と遠山部長との間で、専有買いが成立した場合の成功報酬についても、何度か話題になっていたものの、遠山部長の言辞は、結局のところ、報酬支払について努力するというに止まり、遠山部長が上司(山内支店長)に報告し、決裁を経た上での、被告からの正式な報酬支払に関する確定的な承諾の意思表示及び具体的な金額の回答まではなされないまま経過していたことが窺われる(木村が本件訴訟前に被告宛に出した通告書においても、「商法五一二条及び契約書三〇条」に基づいて、報酬の支払を請求していた事実に照らしても、そのようにみるのが相当である。)。従って、原告と被告間で、本件正式委託にかかる原告の仲介業務に関して、報酬支払の合意が明示的又は默示的になされていたものと認めることはできない。

四  争点3について

前記一の認定事実に加えて、証拠(乙八)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、少なくとも本件先行契約のときから、被告に対し、定款に掲記された会社の目的である一般建築内装・外装の請負工事等のほかに、これに関連して不動産仲介業務も業として行っていることを表示していたものと認められるところ、本件正式委託に際しても、被告は、原告に対し、右原告の営業の範囲内において、専有買いに向けての仲介業務を依頼する旨の意思表示をなし、原告もこれを承諾したものと評価することができる。従って、被告は、原告に対し、商法五一二条に基づき、本件正式委託に基づき原告が被告のためになした仲介業務に関して、相当額の報酬を支払う義務があることになる。

五  争点4について

ところで、宅建業法は、宅建業を営もうとする者は、建設大臣又は都道府県知事の免許を受けなければならないものとし(三条一項)、右免許を受けない者は、宅建業を営んではならない旨規定した(一二条一項)上で、右規定に違反した者は、三年以下の懲役若しくは一〇〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨の刑罰規定(七九条二号)を設けて、宅建業の無免許営業に対しては、厳しい刑罰をもって臨む免許制度を採用している。そうすると、無免許業者のなした媒介行為が、右行政取締にも拘わらず、一応私法上有効に商法五一二条に基づく報酬請求権が成立するとしても、右報酬請求権の行使に対して、依頼者が任意に報酬を支払う場合は格別、前記のような厳しい刑罰規定の存在に鑑みれば、民事裁判においても、裁判所が無免許業者に右報酬請求権の行使を認めて利益を得させることにより、無免許営業に加担することはできず、無免許業者に対する依頼者の報酬支払債務は自然債務にとどまるものと解するのが相当である。そして、前記二、四によれば、原告が本件正式委託に基づき遂行した業務は、宅建業法が無免許業者に禁止している「宅地若しくは建物の売買の媒介」を業として行ったものに該当するから、原告が被告に対し、本件正式委託にかかる報酬につき、裁判上その支払を求めることは許されないといわなければならない。

六  むすび

そうすると、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判官徳岡由美子)

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